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溶接工の人手不足はなぜ?現状と将来性を解説

溶接工の人手不足が深刻だと耳にする一方、溶接は食いっぱぐれない安定した技術だという声も聞かれます。   しかし、AIの台頭によって仕事がなくなるのではないかという懸念や、作業に伴う寿命への影響、実際の離職率など、不安を感じる点も少なくないでしょう。

また、熟練工が持つ「溶接 見えない」とされる高度な技術の必要性や、ホームセンターでの簡単な溶接依頼は可能なのか、そして現在の求人状況はどのようになっているのか、知りたい情報は多岐にわたるはずです。   この記事では、溶接業界が直面する人材不足の背景と、技術者としての将来性について詳しく掘り下げていきます。

 

この記事を読むことで、以下の点が明確になります。

  • 溶接工が不足している具体的な理由と統計データ
  • AIやロボット化が溶接工の仕事に与える実際の影響
  • 溶接作業に伴う健康リスクと安全対策
  • 未経験から溶接工を目指すための求人動向と必要なステップ
目次

溶接工の人手不足が深刻化する背景

  • 統計データに見る人手不足の現状
  • 高齢化と若年層の減少が招く課題
  • 溶接工の離職率と定着の難しさ
  • 溶接工の寿命と健康リスクについて
  • 溶接依頼 ホームセンターでの対応実態

統計データに見る人手不足の現状

 

溶接業界における人材不足は、単なる印象ではなく、公的な統計データにも明確に表れています。   厚生労働省の職業安定業務統計によると、コロナ禍の影響が色濃く残る2021年12月時点で、溶接技能者(金属材料製造、金属加工、金属溶接・溶断の職業)に対する有効求人倍率は5.56倍という、記録的な高水準に達しました。

これは、仕事を探している求職者1人に対して5件以上の求人が寄せられていたことを示しており、いかに多くの企業が人材確保に苦戦していたかを物語っています。

その後も経済活動の再開に伴い、技量資格を持った溶接士への需要は極めて高く、有効求人倍率は3倍を超える水準で推移し続けています。   製造業や建設業といった日本の基幹産業において、溶接は製品の品質と安全性を支える不可欠な工程です。
このため、溶接工の不足が、業界全体の生産性向上や成長を妨げる「ボトルネック」となりつつある実態が浮き彫りになっています。

さらに、日本溶接協会(日溶協)による認証状況からも、技術の担い手育成が追いついていない様子がうかがえます。   例えば、2020年度の溶接技能者認証データを見ると、新規の受験希望者を示す学科受験者数は1万8252人(前年度比17.8%増)と増加しました。
しかし、それに対する合格者数は1万5110人(同17.2%減)と、逆に減少する結果となっています。   これは、一定の技能水準に達する人材の育成が需要に追いついていない可能性を示唆しており、人手不足の「量」と「質」の両面での課題を浮き彫りにしています。

高齢化と若年層の減少が招く課題

 

製造業や建設業全体が直面する構造的な問題ですが、特に溶接業界においては、技術者の高齢化と若年層の減少が深刻な課題となっています。   経済産業省の調査によれば、製造業における34歳以下の若年就業者は、過去20年間で大きく減少しています。
また、建設業界のデータでは、就業者のうち55歳以上が約36%を占める一方で、29歳以下は約12%に留まっており、全産業平均と比較しても高齢化が著しく進行している状況です。

溶接の現場は、一朝一夕には身につかない熟練した技術者の長年の経験と勘に支えられている部分が少なくありません。   これらの高度な技術を持つ技術者が次々と定年退職の時期を迎える一方で、新たに入職する若者が少なければ、日本の「ものづくり」を支えてきた貴重な技術やノウハウの継承が途絶えてしまう恐れがあります。

 

技術継承の危機:失われる「暗黙知」

溶接工の高齢化で最も懸念されるのが、「暗黙知」と呼ばれる、言葉やマニュアルでは伝えきれない高度な技術や勘が失われることです。   これにより、以下のようなリスクが考えられます。

  • 国内製品の品質低下や不良率の増加
  • インフラや建築物の安全性への懸念
  • 国際市場における「メイドインジャパン」の競争力低下

 

また、これまで実質的に溶接士不足の受け皿の一つとなっていた外国人技能実習生の存在も無視できません。   コロナ禍における入国規制により、新規の受験者が減少したことも、一時的に人手不足に拍車をかけた一因とみられます。

さらに、記録的な円安の進行は、特定技能などで働く専門性を持った外国人材の採用コストを押し上げ、日本で働く経済的な魅力を相対的に低下させています。   特に中国や韓国といった近隣アジア諸国においても溶接技能者不足は深刻化しており、アジア全体で高度技能を持つ人材の「取り合い」となっているのが現状です。
日本が今後も外国人材から「選ばれる国」であり続けるためには、賃金体系の改善や、より良い労働環境の整備が急務となっています。

溶接工の離職率と定着の難しさ

 

溶接工の離職率が他の職種と比較して際立って高いというわけではありませんが、特に若年層の定着が難しく、結果として高齢化が進んでしまうという課題が存在します。   この背景には、溶接という仕事特有の要因や、業界に対するイメージが関係しています。

体力的な負担と作業環境

溶接作業は、その多くが立ち仕事や中腰、あるいは狭い場所での不自然な姿勢を長時間続ける必要があります。   また、火花やヒュームから身を守るために、夏場でも長袖の作業着や革手袋、保護面といった防護服の着用が必須です。
このため、特に空調設備が整っていない現場では、夏場の体感温度は非常に高くなり、体力的な消耗が激しくなります。

加えて、作業中は油汚れや鉄粉などで作業着が汚れることも日常茶飯事です。   こうした物理的な厳しさや、「きつい・汚い・危険」といった従来の3Kイメージが、特に若い世代の定着を妨げる一因となっている場合があります。

技術習得にかかる時間と適性

溶接は専門技術職であり、一人前の職人として認められるまでには長い修業期間が必要です。   一般的に、基本的な作業ができるようになるまでにも数ヶ月から数年、複雑な溶接を任されたり、高い品質を安定して出せるようになったりするには、10年以上の経験が必要とされることも珍しくありません。
「一人前になるには15年かかる」と言われるほど、奥の深い世界です。

アーク溶接、半自動溶接、TIG溶接など、扱う金属や求められる品質によって溶接方法も多岐にわたります。   特にTIG溶接などは、非常に繊細な操作が求められるため難易度が高いとされます。

すぐに成果が出にくいため、地道な練習や学習を長期間継続できる忍耐力が求められます。   手先が不器用な人や、コツコツとした単独作業が苦手な人にとっては、技術習得の過程で挫折してしまうケースも見られます。

溶接工の寿命と健康リスクについて

 

「溶接工は寿命が短い」といった話を耳にすることがあるかもしれませんが、溶接作業が寿命に直接影響するという明確な医学的根拠はありません。   ただし、作業の性質上、いくつかの健康リスクが存在することは事実であり、これらを正しく理解し、適切に対策を講じることが不可欠です。

主なリスクとしては、溶接時に発生する有害な粉じん(ヒューム)の吸引、アーク光による眼へのダメージ、そして火傷や感電、騒音といった労働災害が挙げられます。

溶接ヒュームと呼吸器系疾患

溶接ヒュームとは、金属が高熱で溶かされて蒸気となり、それが空気中で冷却されることで発生する微細な粒子のことです。   このヒュームには、使用する金属や溶接棒によって、マンガンやニッケル、クロムなどの有害な物質が含まれる場合があります。

これを長期間にわたって吸引し続けると、じん肺や気管支炎など、呼吸器系の疾患を引き起こすリスクが高まります。   近年、特にマンガンによる神経障害のリスクが重視され、溶接ヒュームは労働安全衛生法に基づく「特定化学物質」に追加され、規制が強化されています。

アーク光による眼への影響

アーク溶接の際に発生する「アーク光」は、日常生活で浴びる光とは比較にならないほど強力です。   この光には、有害な紫外線や赤外線が大量に含まれています。

これを裸眼で短時間見ただけでも、「電気性眼炎(雪目)」と呼ばれる激しい目の痛みや充血、涙が止まらなくなるといった症状を引き起こします。   さらに、長期間にわたり不適切な保護で作業を続けると、白内障などの慢性的な眼の障害につながる危険性も指摘されています。

 

安全対策の徹底が何よりも重要

これらの健康リスクは、すべて適切な予防策によって最小限に抑えることが可能です。   企業側には安全な職場環境を提供する責任があり、作業者自身もルールを守って自己防衛することが大切になります。

  • ヒューム対策: 局所排気装置(集じん機)の設置・稼働、有効な防じんマスクの常時着用。
  • アーク光対策: 適切な遮光番号の溶接保護面(遮光マスク)の絶対的な使用。
  • その他の対策: 燃えにくい作業服、革手袋、安全靴の着用。感電防止装置の点検。耳栓(騒音対策)の使用。

 

溶接依頼 ホームセンターでの対応実態

 

DIY(Do It Yourself)の人気や、家具・バイクのカスタムといった趣味の広がりもあり、個人のレベルでも溶接を行う人が増えています。   これに伴い、「壊れた部品を少しだけ溶接してほしい」「この金具をくっつけたい」といった、比較的小規模なニーズも存在します。

では、こうした個人の溶接依頼を、身近なホームセンターで頼むことは可能なのでしょうか。

結論から言うと、専門的な溶接作業そのものをサービスとして請け負っているホームセンターは、全国的に見ても非常に限定的です。

多くの大手ホームセンターでは、DIY愛好家向けに家庭用の小型溶接機や溶接棒、保護面といった関連機材の「販売」、あるいは高価な機種の「レンタルサービス」を提供しているのが一般的です。

また、店内には「工作室」や「セルフ工房」といったDIYスペースが設けられている場合があります。   しかし、これらのスペースは、購入した木材のカットや簡単な組み立て作業を目的としたものがほとんどです。
溶接作業は火気の使用にあたり、火災のリスク管理や専門の排気設備が必要となるため、安全上の理由から利用規約で禁止されているか、そもそも設備が対応していません。   仮に許可されていても、作業はすべて利用者の自己責任で行うことになります。

したがって、個人が専門的な溶接作業を依頼したい場合は、地域の鉄工所や金属加工、自動車やバイクの板金塗装を専門とする業者を探すのが現実的な方法です。   その際、簡単な図面や現物(修理品)を持ち込み、事前に見積もりを取ることが重要です。

溶接工の人手不足対策と将来の需要

  • 溶接は食いっぱぐれないと言われる理由
  • AI化で溶接工の仕事がなくなる未来は?
  • 熟練工の「溶接 見えない」技術の継承
  • 未経験も対象となる溶接工の求人動向
  • 人材育成とデジタル化による業界の対策
  • まとめ:溶接工の人手不足と今後の展望

溶接は食いっぱぐれないと言われる理由

 

前述の通り、溶接工は人手不足が慢性化していますが、この事実は裏を返せば、一度技術を身につけた人材にとっては需要が極めて安定していることを意味します。   「溶接は食いっぱぐれない」と古くから言われる主な理由は、その技術が持つ高い専門性と、社会における不可欠性にあります。

第一に、溶接技術は、私たちの生活を支える社会インフラや主要産業の根幹をなす「基盤技術」である点です。   例えば、自動車、航空機、造船、鉄道車両といった輸送機器から、高層ビル、橋梁、高速道路、工場のプラント設備といった巨大建造物、さらには身近な家電製品に至るまで、金属が使われる「ものづくり」の現場において、溶接は部品同士を強固に一体化させるために欠かせない工程です。

特に日本国内では、高度経済成長期に建設された橋梁やトンネル、公共施設などのインフラが今後一斉に更新時期を迎えます。   これらの維持・補修・改修工事においても、溶接技術は不可欠であり、需要は今後も増加していくと見込まれています。

第二に、すべての作業が機械やロボットで代替できるわけではない点です。   高い技術力が求められる精密な作業、一つひとつ形状が異なるオーダーメイド品の製作、あるいは現場の状況に合わせて対応が必要な修理・改修作業などは、依然として人間の手による繊細な感覚と判断力が求められます。

このように、需要が安定しているにもかかわらず、担い手は不足しているため、しっかりとした技術を身につけた溶接工は、景気の波にも比較的左右されにくく、全国どこでも活躍の場を見つけやすいのです。

また、技術と経験を積み、溶接技能士や溶接管理技術者といった上位の資格を取得すれば、キャリアアップや大幅な収入向上も期待できます。   厚生労働省のデータによると平均年収は420万円前後ですが、熟練した技術者は年収600万円以上、中には1,000万円を超える高収入を得ている人も存在します。
これが「手に職」としての大きな強みとなっています。

AI化で溶接工の仕事がなくなる未来は?

 

AIやロボット技術が急速に進展する中で、「溶接工の仕事もいずれAIやロボットに奪われるのではないか」と心配する声もあります。

確かに、自動車の製造ラインなどで見られるように、大量生産の現場や、規格化された単純な繰り返しの溶接作業(いわゆる「ルーティンワーク」)は、産業用ロボットによる自動化がすでに広く進んでいます。   ロボットは休憩なしで24時間稼働でき、常に均一な品質で作業を行えるため、生産性向上には大きく貢献しています。

しかし、これが直ちに「溶接工の仕事がなくなる」ことを意味するわけではありません。   むしろ、AIやロボットは深刻な人手不足を補い、人間をより高度で創造的な作業に集中させるための「パートナー」として機能していくと考えられます。

例えば、ロボット溶接を導入・運用する際、そのロボットに正確な動きを教え込む「ティーチング」と呼ばれるプログラム作業や、ロボットが正常に動作しているかの監視、定期的なメンテナンスは、すべて溶接の知識を持った人間の技術者が行う必要があります。

また、建設現場や造船所など、扱う部材が一つひとつ異なり、複雑な形状や狭い場所での作業が求められる「非定型的な作業」は、ロボットによる完全自動化が現在でも非常に困難な分野です。   こうした現場ごとの状況判断や、予期せぬトラブルへの対応こそ、人間の溶接工が持つ経験と技能が最も発揮される領域です。

 

ロボット溶接と人間の溶接工の比較
比較項目 ロボット溶接(自動化) 人間の溶接工(手作業)
得意な作業 大量生産、単純な繰り返し作業、規格化された作業 多品種少量生産、複雑な形状、現場での修理・改修、非定型作業
品質 均一性が非常に高い 技術者の技量に依存するが、ロボット以上の超高品質も可能
柔軟性 低い(作業変更にはプログラム変更=ティーチングが必要) 非常に高い(状況に応じて即座に対応可能)
導入コスト 高い(数百万円~数千万円の初期投資) 低い(人件費、比較的安価な溶接機)
AI時代の役割 人手不足の解消、生産性の向上、過酷な作業の代替 ロボットの管理・操作、高度な技術判断、AIでは困難な作業の実行

 

近年では、人間の作業員と並んで安全に作業できる「協働ロボット(コボット)」も登場しています。   AIは溶接工の脅威ではなく、人間の技術を補完し、生産性と安全性を高めるための強力な道具として活用されていくでしょう。

熟練工の「溶接 見えない」技術の継承

 

溶接の技術継承において、人手不足と並んで最も深刻な課題とされているのが、熟練工が持つ「暗黙知」の伝達です。   暗黙知とは、長年の経験を通じて培われた、言葉や文章(マニュアル)では説明しにくい「勘」や「コツ」のことを指します。

例えば、TIG溶接のように非常に繊細な作業では、アーク光の強さや部材の形状、溶接する角度によって、肝心な溶接箇所(金属が溶けている「溶融池」)が直接見えにくくなることがあります。   にもかかわらず、熟練した技術者は作業を止めません。

彼らは、アークの「ジージー」という音のわずかな変化、手に伝わる熱の感覚、溶融池のわずかな動きや色合いなどを五感で鋭敏に感じ取ります。   そして、それらの情報を瞬時に統合し、見えない部分で金属が今どのような状態にあるかを正確に把握しながら、溶接トーチや溶加棒(溶接棒)をコンマ数ミリ単位で操作します。
これが、俗に「溶接 見えない」と呼ばれる技術の一例です。

こうした高度な技能は、従来の教科書やマニュアルだけで教えることは極めて困難でした。   なぜなら、教えている熟練工自身も「長年の経験則」や「体で覚えた」感覚で身につけてきたため、その技術を論理的に言語化して説明することが難しい場合が多いからです。

その結果、技術指導はOJT(On-the-Job Training:現場実習)に頼りがちになり、「師匠の背中を見て盗め」といった旧来的な指導方法が中心となり、指導者によって教え方も千差万別になっていました。   この暗黙知の継承がうまくいかないことが、若手が一流の技術者へ成長するのを妨げ、人手不足の解消をさらに難しくしている大きな要因となっています。

未経験も対象となる溶接工の求人動向

 

前述のような深刻な人手不足を背景に、現在の溶接工の求人市場は、未経験者に対しても広く門戸を開いています。   多くの企業が、業界の将来を担う技術者を自社で育成することに力を入れており、「未経験者歓迎」「学歴不問」「資格取得支援制度あり」といった条件を掲げる求人が多数見られます。

もちろん、溶接作業を行うためには、労働安全衛生法に基づく「アーク溶接特別教育」や「ガス溶接技能講習」といった資格(厳密には教育の修了証)が必要となります。  しかし、これらの基本的な資格は、数日間の講習と実技で取得が可能です。

多くの企業では、これらの資格取得にかかる費用を会社側が全額負担し、入社後に研修を受けさせる体制を整えています。   そのため、応募時点ではまったくの無資格・未経験であっても、挑戦することが可能です。

ハローワークの職業訓練(公共職業訓練)などでも、溶接技術を基礎から学べるコース(短期資格取得カリキュラム)が設けられている場合があり、こうした制度を利用して知識を身につけてから就職活動を行う道もあります。

 

溶接工に向いている人の特徴

未経験からでも挑戦しやすい一方で、溶接工には一定の適性も求められます。   一般的に、以下のような特徴を持つ人が向いているとされています。

  • 細かい作業が得意な人: 数ミリ単位の精度で作業を続ける集中力が求められます。
  • 体力に自信がある人: 長時間の立ち仕事や、夏場の暑さに耐えられる体力が必要です。
  • 集中力・忍耐力がある人: 単純作業の繰り返しや、技術習得までの地道な努力を継続できる力が大切です。
  • 責任感が強い人: 溶接の品質が製品全体の安全性に直結するため、丁寧で確実な仕事ができる責任感が不可欠です。

 

もちろん、前述の通り、技術の習得には時間がかかり、体力も求められる仕事です。   しかし、日本の「ものづくり」に直接関わりたい人や、一度身につければ一生モノとなる専門技術をゼロから学びたい人にとっては、非常に大きなチャンスがある分野だと言えます。

人材育成とデジタル化による業界の対策

 

業界全体としても、この深刻な人手不足と技術継承の課題を傍観しているわけではありません。   これらの問題を克服するため、従来の枠組みにとらわれない、新たな人材育成の取り組みが加速しています。
その柱となっているのが、教育体制の抜本的な見直しと、AIやVRといったデジタル技術の積極的な活用です。

教育事業の強化と裾野の拡大

日本溶接協会(日溶協)などは、中核的な役割を担っています。   例えば、新規のJIS試験受験者を対象とした講習会を全国の指定機関と連携して開催し、専用テキストを用いた分かりやすいカリキュラムを提供することで、合格率の向上を図っています。

また、これまで溶接と縁がなかった層へもアプローチを広げています。   一例として、就職氷河期世代を対象とした短期資格取得カリキュラムを展開するなど、溶接人口の裾野を広げるための地道な対策も進められています。

AI・デジタル技術による「暗黙知の可視化」

特に注目されているのが、技術継承の最大の壁であった「暗黙知」をデジタル技術で克服しようとする試みです。

日鉄ソリューションズ、HCMIコンソーシアム、日本溶接協会などが共同で研究開発を進めているのが、AIを活用した溶接シミュレータです。   このシステムは、熟練技術者が作業を行う際の身体の動き(トーチの角度、速度、距離など)や、その時の溶融池の状態変化といった膨大なデータをAIに学習させます。

訓練者は、VR(仮想現実)ゴーグルやAR(拡張現実)技術を使い、実際の火花や金属、ガスを使わずに、安全かつ低コストでリアルな溶接トレーニングを行うことができます。

このシミュレータの画期的な点は、単に練習ができるだけではないことです。   訓練者の動きをAIがリアルタイムで解析し、手本である熟練技術者のモデル(動き)とどこが違うのか、その差分を検出します。
「速度が速すぎる」「角度が不安定だ」といった具体的な改善点を即座に提示してくれるため、学習効率が飛躍的に向上します。

こうしたデジタル技術の活用は、若手技術者の育成期間を大幅に短縮する可能性を秘めているだけではありません。   言語的なハンデを抱える外国人労働者の教育や、体力的な問題でこれまで参入が難しかった女性の溶接業への参画を促す上でも、大きな力となることが期待されています。

まとめ:溶接工の人手不足と今後の展望

この記事で解説した、溶接工の人手不足の現状と、その将来性に関する重要なポイントを以下にまとめます。

  • 溶接工の有効求人倍率はコロナ禍で5倍を超え、現在も3倍超で推移している
  • 業界は慢性的な人手不足の状態にあり、企業の採用難が続いている
  • 人手不足の主な原因は、技術者の高齢化と若年層の入職者減少である
  • 外国人技能実習生の減少や円安による人材獲得競争の激化も影響している
  • 作業環境の厳しさ(暑さ、姿勢)や、技術習得に長い時間がかかることが若年層定着の課題となっている
  • 溶接ヒューム(粉じん)やアーク光(紫外線)といった健康リスクには、排気装置や保護具による適切な対策が不可欠である
  • 個人の小規模な溶接依頼をホームセンターで請け負ってもらうのは困難である
  • 溶接は社会インフラや主要な製造業に必須の基盤技術である
  • インフラの老朽化対策(更新需要)もあり、需要は今後も安定している
  • 需要が安定しているため「食いっぱぐれない」技術と言える
  • AIやロボット化は、主に大量生産や単純作業の分野で進んでいる
  • 複雑な形状や現場での修理・改修など、人間にしかできない非定型作業の需要は残り続ける
  • AIは仕事を奪う脅威ではなく、人手不足を補い、教育を支援するパートナーとなる
  • 熟練工が持つ「溶接 見えない」といった言葉にできない「暗黙知」の継承が業界の最重要課題となっている
  • 深刻な人手不足のため、未経験者歓迎の求人が多く、資格取得支援も充実している
  • AIやVRを活用した溶接シミュレータなど、デジタル技術による新たな人材育成策が業界全体で進んでいる
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