建設工事において「出来高払い」という言葉を耳にすることがあるかと思います。 建設業の出来高払いは、特に経営体力が十分でないことの多い下請業者の資金繰りを支える、非常に重要な仕組みです。
しかし、その具体的な出来高払いの計算方法や、会計処理における出来高の売上計上はいつ行うべきか、悩む方も少なくありません。
また、建設業法における出来高払いの規定は努力義務なのか、それとも法的な拘束力があるのか、一般的な出来高払いに関する法律関係は複雑に感じるかもしれません。 国土交通省が推進する出来高部分払の具体的な内容や、公共工事での出来高払いの適用についても気になるところです。
実務レベルでは、出来高請求書の適切な書き方、特にインボイス制度への対応方法、そしてなぜ出来高払いが9割とされる慣行があるのか、その理由も深く知っておく必要があります。 ちなみに、医療分野でも使われる出来高払いとは根本的に異なるため、混同しない注意も求められます。
この記事では、建設業の出来高払いに関するこれらの多岐にわたる疑問を一つひとつ解消し、制度の基本的な仕組みから法的な背景、実務上の具体的なポイントまでを分かりやすく解説していきます。
この記事を読むことで、以下の点について理解が深まります。
- 出来高払いの基本的な仕組みと法律(建設業法・民法)との関係性
- 建設業法や国土交通省が定める下請業者保護ルールの詳細
- 売上計上(工事完成基準・工事進行基準)や請求書作成など実務上の注意点
- 公共工事や医療分野における出来高払いとの明確な違い
建設業 出来高払いの基礎知識
建設業における出来高払い制度の基本的な概念や、なぜこの制度が必要とされるのか、そして法律との関連性について詳しく解説します。
- 出来高払いと法律の関係
- 建設業法における出来高払いの規定
- 国土交通省の出来高部分払とは
- 出来高払いは公共工事でも使われるか
- 出来高払いの計算方法を解説
出来高払いと法律の関係

建設業における出来高払い制度は、単なる商習慣として存在するものではなく、元請業者と下請業者の間の公正な取引を担保し、特に経営体力で劣る下請業者を保護するために、法律や国のルールによって支えられています。
なぜなら、建設工事は数ヶ月から数年にわたる長期間のプロジェクトが多く、もし工事がすべて完成し、発注者に引き渡されるまで代金が一括で支払われない場合、下請業者はその間の材料費や人件費、重機のリース費用などをすべて立て替えなければなりません。
この資金的負担は非常に大きく、資金繰りの悪化から経営難に陥るリスクを高めます。
このような建設業界特有の構造的な問題を背景に、下請業者の経営安定と思考の適正化を図るため、法的な枠組みが整備されています。
- 民法上の原則 : 民法における「請負契約」では、原則として「仕事の完成」と引き換えに報酬が支払われます(民法第632条)。つまり、完成一括払いが基本です。
- 建設業法の特則 : しかし、この民法の原則だけでは下請業者の保護に欠けるため、建設業法において特別なルールが定められています。 これにより、元請・下請間の力関係の非対称性を是正し、より公平な取引を促しています。
- 契約約款での具体化 : さらに、国土交通省が定める「建設工事標準請負契約約款」などでは、出来高払いを契約内容に盛り込むことが推奨されており、実務上の契約はこれに基づいて行われることが多くなっています。
このように、出来高払いは下請業者の経営安定を図り、ひいては建設業界全体の健全な発展を促すための、法的な背景を持つ重要な制度と言えます。
建設業法における出来高払いの規定

建設業法は、建設業の健全な発達と建設工事の適正な施工を確保することを目的としています。 この法律の中で、「出来高払いをしなさい」と直接的に義務付ける条文はありません。
しかし、下請業者の資金繰りを保護するための、非常に重要な関連規定が設けられています。
重要なのは、下請代金の支払いに関する以下の2つのルールです。
1. 元請が発注者から支払いを受けた場合の連動(建設業法第24条の3)
元請負人が発注者から、工事の出来形部分(出来高)について支払いを受けた場合、元請負人は、下請負人に対しても、その支払い対象となった工事部分に対応する下請代金を、支払いを受けた日から1ヶ月以内という短い期間で支払わなければなりません。
これは「出来高部分払」と呼ばれ、元請が受け取った資金を下請に速やかに循環させるための規定です。
2. 工事完成時の支払い(建設業法第24条の5)
元請負人は、下請負人から工事が完成した旨の通知を受けた場合、その日から20日以内に検査を完了し、かつ、下請負人からの引渡し申出の日から50日以内に下請代金を支払わなければなりません。
これは工事完成後(引渡し前)の支払いルールですが、出来高払いがなかった場合の最終的な支払い期限を明確にするものです。
これらの規定は、下請業者が不当に長期間、代金の支払いを受けられない事態を防ぐためのものです。出来高払いは、契約自由の原則に基づき元請・下請間の合意によって定められますが、その運用にあたっては、これらの建設業法の趣旨に沿って、下請業者に不利にならないよう配慮することが求められます。
国土交通省の出来高部分払とは

国土交通省は、前述の建設業法や関連法令の趣旨を踏まえ、下請業者の資金繰り改善策の柱として「出来高部分払」の活用を関係各所に強く指導・推進しています。
これは、工事が完了する前であっても、出来形(できがた・工事の出来上がった部分)に応じて、請負代金の一部を下請業者に支払う仕組みを指します。 国土交通省が作成・推奨している「建設工事標準請負契約約款」では、この部分払いの具体的な方法や条件が示されています。
国土交通省の推進する施策のポイント
- 標準約款での明記 : 下請業者が希望し、請求を行った場合に、元請業者は出来高に応じた部分払を行うべき旨を約款に盛り込むよう推奨しています。
- 前払金・中間前払金の活用 : 元請業者が発注者から受け取った前払金や中間前払金を、下請業者への出来高払いや材料費の支払いに充当することを強く指導しています。資金を元請で滞留させず、下流の業者にまで行き渡らせることが目的です。
- 工期の長い工事での配慮 : 特に、工期が180日を超えるような一定規模以上の長期工事において、下請業者が希望した場合には出来高払いを選択できるよう配慮を求めています。
この制度の根本的な目的は、元請業者が受注した工事の資金(特に前払金など)を活用し、下請業者への支払いを可能な限り早期に行うことで、建設業界全体のキャッシュフローを改善することにあります。
したがって、国土交通省が推進する出来高部分払は、法律の枠組みを実務レベルで補完し、現場で下請業者の経営を具体的にサポートするための重要な施策と言えます。
出来高払いは公共工事でも使われるか

出来高払いは、民間の建設工事だけでなく、国や地方自治体が発注する公共工事においても、制度として確立され広く採用されています。
公共工事は、会計法や地方自治法に基づき、税金が原資であるため非常に厳格な検査・支払いルールが定められています。
しかし同時に、プロジェクトが大規模かつ長期にわたることが多いため、受注者(元請業者)の資金繰り支援も、工事を円滑に進める上で不可欠な要素として重視されます。
そのため、「公共工事標準請負契約約款」において、以下の支払い方法が明確に規定されています。
- 前金払い : 工事着手前に、請負代金の一部(例:40%以内)を支払う制度。
- 中間前金払い : 前金払いに加え、工期半ばで一定の要件を満たした場合に、さらに追加で(例:20%以内を)支払う制度。
- 部分払い(出来高払い): 上記とは別に、工事の進捗(出来形)に応じて、完成前に代金の一部を支払う制度。
発注者(国や自治体)は、受注者(元請業者)からの請求に基づき、工事の出来形部分を検査し、その価値に相当する代金を(通常は10回以内など回数制限を設けて)支払うことができます。
この支払いは、通常、一定の出来高率(例えば既済部分が25%を超えるごとなど)に達した場合や、定期的なタイミング(例えば3ヶ月ごとなど)で行われるよう定められています。
そして、元請業者が発注者からこの出来高払いを受けた場合、前述の通り建設業法第24条の3の規定に基づき、関連する下請業者に対しても、受け取った日から1ヶ月以内に対応する工事部分の代金を速やかに支払う義務が生じます。
このように、公共工事においても出来高払いは制度化されており、工事規模が大きく工期が長くなりがちな公共事業において、受注者やその先の協力会社の経営を支える重要な役割を担っています。
出来高払いの計算方法を解説

出来高払いの計算方法は、契約内容や工事の性質によって異なりますが、基本的には「工事の進捗率(出来高率)」を客観的に算出し、それに基づいて支払額を決定します。
最も一般的な方法は、請負契約金額全体に対して、どれだけの割合の工事が完了したかを評価し、その割合に応じた金額を支払うものです。
1. 査定(出来高検査)の実施
計算の前提として、まず元請業者が下請業者の施工した部分を検査(出来高査定)します。 これは支払額を決定するための非常に重要なプロセスです。
- 確認項目 : 設計図書(図面、仕様書)通りに施工されているか、品質は確保されているか、契約通りの材料が使われているか、どれだけの数量(長さ、面積、体積など)が完了しているかを確認します。
- 客観性 : この査定結果が支払いの直接的な根拠となるため、元請・下請双方立ち会いのもと、客観的な基準に基づいて行われる必要があります。
2. 出来高率の算出
出来高率は、以下のようないくつかの方法で算出されます。
- 数量ベース : 総工事量(例:コンクリート打設1000m³)のうち、完了した量(例:300m³)で算出する(この場合、進捗率30%)。
- 金額ベース : 工事全体の積算金額(見積額)のうち、完了した部分(工種)の積算金額の割合で算出する。これが最も一般的です。
- 工種ごとの評価 : 複数の工種(例:土工事、鉄筋工事、型枠工事)がある場合、工種ごとに進捗率を評価し、それらを全体の契約金額に応じて加重平均する方法もあります。
3. 支払額の決定
出来高率が確定したら、支払額を計算します。 ここが実務上、最も複雑になる部分です。
なぜなら、多くの場合「前払金」が支払われており、また契約によっては「保留金」が設定されているため、それらを考慮して最終的な支払額を決定する必要があるからです。
| 項目 | 金額・計算 | 備考 |
|---|---|---|
| ① 請負契約金額(総額) | 10,000,000円 | 契約時に決定した総額 |
| ② 前払金(支払済み) | 2,000,000円 | 契約金額の20% |
| ③ 今回の査定出来高率 | 30% | 元請による査定で確定 |
| ④ 出来高金額(累計) | 3,000,000円 | ① × ③ (1,000万円 × 30%) |
| ⑤ 前払金充当額 | 600,000円 | ④ × 20% (出来高額 × 前払率)
※②(200万円)を出来高に応じて分割して差し引く |
| ⑥ 保留金(10%設定) | 300,000円 | ④ × 10% (出来高額 × 保留率)
※「9割払い」の根拠 |
| ⑦ 今回の支払額 | 2,100,000円 | ④ – ⑤ – ⑥
(300万 – 60万 – 30万) |
※注:前払金の充当方法や保留金の計算方法は契約によって異なる場合があります。
このように、計算方法は契約の取り決めに大きく左右されます。 特に「前払金をどのタイミングでどれだけ差し引くか(充当するか)」や、「保留金(9割払い)の有無」は、資金繰りに直結するため、契約時に支払いの条件や計算の基準を明確に書面で合意しておくことが非常に大切です。
建設業の出来高払いを実務で活用
出来高払い制度を実際の業務でどのように扱うか、特に会計処理(売上計上)や税務、請求書の作成、そして業界特有の慣行について詳しく解説します。
- 出来高の売上計上のタイミング
- 出来高請求書の書き方のポイント
- 出来高払い9割の理由とは
- 建設業と医療の出来高払いの違い
- 建設業 出来高払いのまとめ
出来高の売上計上のタイミング

建設業の会計処理において、出来高払いで受け取った金銭を、どのタイミングで「売上」として計上するかは非常に重要であり、税務上の扱いとも密接に関連します。
会計上、工事の売上を計上する基準には、主に「工事完成基準」と「工事進行基準」の2つがあります。
1. 工事完成基準
これは、工事がすべて完成し、注文者に引き渡した時点で、工事代金の全額を売上として計上する方法です。工期が短い工事ではこの基準が一般的です。
この基準を採用している場合、工事の途中で出来高払いを受けても、それは会計上の「売上」とはなりません。 その金銭は「未成工事受入金(みせいこうじうけいれきん)」という勘定科目で、一時的に負債(前受金)として処理されます。
そして、工事が完成・引き渡しされた時点で、この負債を取り崩し、売上高に振り替えます。
2. 工事進行基準
一方、工期が1年以上にわたるような長期の工事や、請負金額が一定(例:10億円)以上の大規模工事では、税法上または会計基準上、「工事進行基準」の適用が求められる場合があります。
この基準では、工事の完成を待たず、決算日時点での工事進捗率(出来高率)を合理的に見積もり、その進捗に見合った売上高と原価を計上します。
この場合の進捗率は、まさに出来高査定の客観的なデータ(原価比例法など)に基づいて算出されることが多くなります。
この基準を適用すると、出来高払いの入金と売上計上のタイミングが近くなります。
| 項目 | 工事完成基準 | 工事進行基準 |
|---|---|---|
| 売上計上のタイミング | 工事の完成・引渡し時 | 決算期末の工事進捗度に応じて計上 |
| 適用される工事 | 短期の工事、小規模な工事 | 長期(1年以上)の工事、大規模工事 |
| 出来高払い受取時の処理 | 未成工事受入金(負債) | 売上高(収益)として計上(または前受金処理) |
3. 消費税の扱いは別(重要)
注意点として、法人税や所得税の会計上の売上計上タイミングと、消費税の「仕入税額控除」(外注費や材料費にかかる消費税を差し引くこと)のタイミングは、連動しない場合があります。
消費税法上、外注費などの仕入税額控除は、原則として「役務の提供を受けた日(=工事の完成・引渡しの日)」に一括して行います。
ただし、例外として、出来高払いに伴い「出来高検収書」などが発行され、完了した部分が明確に区分され、相手方(元請)の検収が完了している場合は、その検収が完了した時点で、その部分に対応する消費税を部分的に仕入税額控除として処理することが認められるケースもあります。
このように、出来高払いの売上計上や税務処理は、採用する会計基準や税法のルールによって扱いが変わるため、自社の判断だけでなく、専門家である税理士とも相談の上、適切に処理する必要があります。
出来高請求書の書き方のポイント

出来高払いを請求する際の請求書(出来高請求書)は、単に金額を記載する通常の請求書とは異なり、工事の進捗状況と請求の根拠を明確に示す必要があります。
元請業者とのスムーズな取引のため、また2023年10月から始まったインボイス制度(適格請求書等保存方式)に正しく対応するためにも、以下のポイントを押さえて作成することが求められます。
1. 契約内容の明記
どの工事契約に基づく請求であるかを元請業者が即座に識別できるよう、以下の情報を正確に記載します。
- 工事名
- 工事場所
- 契約日
- 請負契約金額(総額)
2. 出来高の内訳の明示
請求の根拠となる「出来高」の内訳を具体的に示すことが最も重要です。 多くの場合、請求書本体とは別に「出来高内訳書」や、元請の確認印が押された「出来高検収書」の写しを添付します。
請求書本体にも、少なくとも以下の情報を記載し、金額の算出根拠を明確にします。
- ① 出来高累計額 : (今回の査定時点までの、工事全体の進捗金額)
- ② 既支払額(前回までの累計): (前回までに受け取った出来高払いや前払金の合計)
- ③ 今回請求額(税抜): (① − ② = 今回の出来高対象額)
- ④ 消費税額等 : (③に対する消費税額)
- ⑤ 今回ご請求金額(税込): (③ + ④)
※前払金の充当や保留金がある場合は、それらも内訳として明記するとより親切です。
3. インボイス制度への対応
出来高請求書も、消費税の仕入税額控除の対象となるため、インボイス(適格請求書)の要件をすべて満たす必要があります。
インボイス制度 必須記載事項
- 発行事業者の氏名又は名称及び登録番号
- 取引年月日(出来高の検収日や査定日など)
- 取引内容(例:「〇〇工事 出来高(〇月分)」など、軽減税率の対象品目があればその旨)
- 税率ごとに区分した合計金額(税抜又は税込)及び適用税率
- 税率ごとに区分した消費税額等
- 書類の交付を受ける事業者の氏名又は名称(元請業者の正式名称)
出来高払いは複数回にわたるため、その都度発行する請求書がインボイス要件を満たしていないと、元請業者が消費税の控除を受けられなくなる(元請の税負担が増える)可能性があります。 これは取引関係において重大な問題となるため、細心の注意が求められます。
出来高払い9割の理由とは

「出来高払いなのに、査定額の9割しか支払われない」という話を聞くことがありますが、これには建設業界特有の「保留金(ほりゅうきん)」という商慣行が関係していることがほとんどです。
これは、元請業者が下請業者に対し、請負代金の一部(契約で定めた率、例えば5%や10%)を、工事がすべて完了し、さらに一定期間(瑕疵担保期間など)が経過するまで支払いを留保する仕組みを指します。
保留金の目的
なぜこのような慣行が存在するのでしょうか。元請業者側の視点では、主に以下のような目的があります。
- 瑕疵担保の担保 : 工事完成後に不具合や欠陥(瑕疵=かし)が発見された場合、下請業者が修補(手直し)に応じない、あるいは倒産してしまった場合に、その修補費用に充当するため。
- 工事完成の担保 : 下請業者が工事を途中で放棄せず、最後まで確実に完成させるための「担保」としての意味合い。
- 清掃・片付け等の費用 : 最終的な引渡し前の清掃や、細かな手直し費用に充てるため。
「9割払い」の仕組み
この保留金の慣行が出来高払いに適用されると、「査定した出来高金額の10%を保留金として差し引き、残りの9割(90%)を支払う」という運用がなされることがあります。
例えば、出来高査定額が300万円だった場合、その10%にあたる30万円を保留金(未払い分)とし、差し引いた270万円(とそこから前払金充当分などを引いた額)を支払う、という流れです。
この留保された保留金は、通常、最終的な工事がすべて完了し、検査に合格した後の本払いや、契約で定めた瑕疵担保期間が満了した時点(例:引渡しから1年後など)で、問題がなければ支払われます。
注意点(法律との関係)
ただし、この保留金制度は、下請業者の資金繰りを明らかに圧迫する要因にもなり得ます。
保留金に関する法的注意点
建設業法では、元請業者がその優越的な地位を利用して、下請業者に対し「不当に低い請負代金」や「不当な減額」を強いることを禁止しています。 合理的な理由(例:瑕疵担保のため)がなく高額な保留金(例えば20%など)を設定したり、不当に長期間(例:引渡しから3年以上)支払いを留保したり、あるいは理由なく保留金を支払わないことは、この建設業法違反(不当な減額)に該当する可能性があります。
したがって、「出来高払いの9割」という条件を提示された場合は、それが保留金制度に基づくものなのか、その割合(10%)や支払い時期(いつ返還されるのか)は妥当なのかを、契約時に書面でしっかりと確認し、合意しておくことが不可欠です。
建設業と医療の出来高払いの違い

同じ「出来高払い」という言葉が使われるため、日常会話で混同されがちですが、建設業の出来高払いと、医療分野の出来高払いは、その仕組み、目的、そしてお金の流れが全く異なります。
医療における出来高払い(診療報酬制度)
医療分野での出来高払いは、主に病院やクリニックが保険組合や自治体に請求する「診療報酬」の計算方式の一つです。
これは、患者に対して行われた個々の診療行為(診察、検査、注射、投薬、手術、リハビリなど)のすべてに、国が定めた公定価格(点数)が付けられています。診察が終わると、実施した行為の点数を一つひとつ積み上げて合計し、医療費の総額を算出する方式を指します。
つまり、「提供した医療サービスの量(Quantity)」に応じて、受け取る報酬の「総額(Total Price)」が決まる仕組みです。
建設業における出来高払い
一方、建設業における出来高払いは、すでにあらかじめ総額(請負契約金額)が決められた「請負契約」の中で、工事の完成・引渡し前に、その時点での「工事の進捗度(Progress Rate)=出来形」に応じて、代金の一部を前倒しで支払う方式です。
最終的に支払われる総額は、追加工事や設計変更がない限り、原則として契約金額を超えることはありません。 これは、工期が長い建設業において、下請業者などの資金繰りを支援することを主な目的とした「支払いタイミング(Payment Timing)」に関する仕組みです。
比較まとめ
両者の違いを明確にするため、以下の表にまとめます。
| 項目 | 建設業の出来高払い | 医療の出来高払い |
|---|---|---|
| 目的 | 下請業者等の資金繰り支援 | 医療機関への報酬計算 |
| 位置づけ | 支払いタイミングの一方式(分割・前倒し) | 報酬総額の決定方式 |
| 基準 | 工事の進捗率(出来形) | 実施した診療行為の量(点数) |
| 総額 | 契約時に決定済み(原則変動しない) | 実施した分だけ変動(青天井になり得る) |
このように、建設業の出来高払いは「決まったパイ(総額)を、どういうタイミングで分けて支払うか」という問題であるのに対し、医療の出来高払いは「行ったサービス(点数)を足し算して、パイの総額を決定する」という問題であり、根本的に異なっていることが分かります。
建設業 出来高払いのまとめ

建設業の出来高払いについて、その仕組みや法律との関係、実務上のポイントを解説しました。最後に、本記事の重要な点をまとめます。
- 建設業の出来高払いは下請業者の資金繰り支援が主な目的
- 工事完成前に出来形(工事の出来上がった部分)に応じて代金が支払われる
- 法律(建設業法)で支払いを直接義務付けてはいないが下請業者保護の規定が強く関連する
- 元請が注文者から出来高払いを受けたら下請にも1ヶ月以内に支払う義務がある
- 国土交通省も標準約款などで出来高部分払の活用を強く推進している
- 公共工事においても発注者(国・自治体)による出来高払いが制度化されている
- 計算方法は契約総額に進捗率(出来高率)を乗じて算出するのが一般的
- 計算の前提として元請による客観的な出来高査定(検査)が必要となる
- 会計上の売上計上は「工事完成基準」(完成時に一括計上)か「工事進行基準」(進捗に応じ計上)かで異なる
- 工事進行基準では出来高率に基づき決算時に売上を計上するため実態に近くなる
- 消費税の仕入税額控除は原則完成時だが「出来高検収書」により按分処理も可能
- 出来高請求書には契約内容や出来高の内訳を明記する必要がある
- インボイス制度(適格請求書)の要件を満たした請求書の発行が求められる
- 「出来高払い9割」の慣行は工事の瑕疵担保などのための「保留金(1割)」が関係している
- 医療の出来高払いは個々の診療行為(サービス量)を積算する報酬決定方式であり建設業とは全く異なる
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